半鐘の半死半生

社会に警鐘を鳴らす…わけもなく。

片腕

「片腕を一晩お貸ししてもいいわ。」と娘は言った。そして右腕を肩からはずすと、それを左手に持って私の膝においた。


 このような一文を見せられて、興味を持たないでいることは難しい。数年前のことで、確か、何かの書評であったかと思うのだが、定かでない。ただ、程なくして私はその作品を求めたのである。
 それが、川端康成による『片腕』という短編である。よく行くブログにてその名を見たとき、当時の鮮烈な印象を思い出した。その印象とは、奇怪な筋立ては勿論のことであるが--とにかく文章の美しさに魅せられたことにある。ピンとした緊張感と、緻密さ、とでもいうのだろうか。雪が降り止んだ後の、冷たい、引き締まった、それでいて瑞々しい空気のような印象を、私は持った。
 話の内容についてはここでは触れない。ただ、異様な話とだけしておく。しかし、妙に引き込まれる。その理由は、よく知ったもののようであるのだが、適切な言葉に置換できない。エロス、とでもいえば説明した気になれそうなものだが、左様に単純にはいかない。単純ではない。

 ところで、私がこの作品を読んだのは、新潮文庫の『眠れる美女』の方であった。本書には、表題作、「片腕」、「散りぬるを」の3編が収められている。「片腕」もさることながら、表題作の「眠れる美女」がまた異様であった。老いた男性というのは、このような異様な空間を求めたくなるものなのであろうか? わからない。しかし、そもそも、このような発想が出てくる作者の方がよほどわからない。文豪、という記号よりよほど面白い存在に思う。
 先のブログに、「私も好きです」とコメントすればよさそうなものだが、いかんせん、愛着のある一篇ゆえ、つい長々と書いてしまった。否、感想はぜひに自分のブログに残したかったのであろう。

付言B | コメント:0 | トラックバック:0 |
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